地方企業のオープンイノベーション代表事例に!YOKAプロとドーガンβの挑戦

ドーガン・ベータが運営するVCファンドには、累計で30社を超えるLP投資家の皆様のご出資を頂いています。その多くは九州の地元企業で、LP出資を通じてスタートアップとの連携や新規事業開発など、それぞれに取り組みを進められています。

なかでも、QTnetさんは「YOKAプロ」というチームを組成し、VCファンドへの出資や新規事業などを展開されています。今回は、チーム歴代トップの御三方にお話を伺ってみました。

(インタビュアー:ドーガン・ベータ 林)

積極的なスタートアップとの連携を通じた新規事業開拓

林 :まずは、ドーガン・ベータのファンド出資を決めていただいた当時の、初代ご担当の野村さんからお話を伺いたいと思います。今は九州電力ご本体に戻られてご活躍と伺っていますが、前職のQTnetでのお仕事について教えてください。

野村 晃彦(のむら あきひこ)
九州電力株式会社 情通信本部副部長
1994年入社。電力保安通信業務を9年間担当。2003年国際大学(eビジネス経営学)派遣。卒業後は、九州電力の光ファイバ心線貸事業、キューデンインフォコムでICTコンサルタント業務、九州通信ネットワーク(現QTnet)経営企画部長など、主に情報通信分野における九電グループの新規事業に携わる。22年7月から現職。

野村:2014年に九州電力からQTnetに出向し、2年後の2016年に経営企画部部長に就任しました。同じタイミングで林さんと初めてお会いし、翌年の2017年にアントレ2号ファンドへの出資を決定しました

林 :当時は本当にお世話になりました。このファンドへの出資が、QTnetとしても初めての投資だったと伺っています。

野村:その通りです。QTnetは元々法人や一般利用者向けに回線インフラを提供する会社なのですが、インフラの上で動かすアプリケーションサービスを提供できるようになろうということで新規事業・サービスの開発部ができました。ただ、それまでインフラに特化していたこともあり、なかなか新しいアイデアが生み出せずに、どちらかというと営業推進の施策検討に終始していたイメージでした。

QTnetとしては、新事業を企画したいという気持ちがあった一方で、社内だけでは行き詰まりを感じていたので、ベンチャー企業さんとの繋がりが持てるというところには一番惹かれました。また、アントレ2号ファンドの「地域に根差し、九州に特化したスタートアップを支援する」というコンセプトは、九州をフィールドに事業を展開している弊社とシナジーを生むのではないかと感じました。ベンチャー企業さんとの繋がり方や評価の仕方やスキル、目利きといった部分の勉強から始めたかったので独立系のVCさんを探していました。

林:当時、野村さんが作成された社内整理資料を拝見したのですが、ファンドの基本的な仕組みからQTnetとしてドーガン・ベータに出資することの意義まで、凄くきれいにまとめられていて感銘を受けたのを鮮明に覚えています。我々の思いである「金融の地産地消」という部分が野村さんから歓迎頂いたという印象があります。

野村:初めての試みだったので社内だけでなく親会社にも説得する必要がありました。QTnetがこれから伸びていくにあたってスタートアップと知り合い、社外と協調することがいかに大切かという話を色々な人に説いて回りました。

林:実はアントレ2号ファンドを立ち上げた同年にドーガン・ベータという会社も設立(ドーガンからの分社化)しました。それ以前は地方銀行さんや中小機構さんのような比較的ファンド投資に慣れている方々からお金をお預かりしていましたが、まさに分社化した2017年から地元の事業会社さんへの出資提案活動を開始しました。野村さんにはまっさきに地域ベンチャーエコシステムへの貢献やオープンイノベーションというキーワードに共感をいただき、とても心強かったです。そして、ファンド出資のあと岩淵さんにバトンタッチされるのですね。

野村:実は岩淵は、2018年に僕の後任ということでQTnet経営企画部に着任したのですが、仕事を一緒にする中で新規事業に対する熱量が同じであることに気づいたんです。

岩淵:野村さんのご意見もいただきながら、その熱量を新規事業が生まれる仕組みづくりに注ぎ込みました。そして2019年、スタートアップを含めた外部連携を進め、QTnetの新規事業開発や組織文化の改革に貢献する、新しいプロジェクト組織として、YOKAプロが立ち上がりました。

岩淵 宏信(いわぶち ひろのぶ)
九州電力株式会社 DX推進本部イノベーションG長
1973年福岡県生まれ、1995年九州電力へ入社。主に情報通信関係の業務に従事。これまで11年間は、出向など社外を経験。九州電力でドローン事業立ち上げに貢献した。2018年からQTnetに出向。出向中に新規事業部署「YOKAプロ」を立上げ、eスポーツ事業などを開始するとともに「QTnetオープンイノベーションプログラムTSUNAGU」を手掛けた。現在は、九州電力で新規事業を担当している。

チャレンジのためのYOKAプロ結成

岩淵:僕たちはまず、初期メンバーとして、社内で「なにか強みとなる武器を持った人材」を探しました。お互いの強みを活かしあってみんなで協力すれば何でもできる、という環境を目指ししました。その手段として初めて社内公募を使ったんです。当時はYOKAプロという名前も決まっていなかったため、プロジェクトXという名目でメンバーを募ると、営業や技術など、様々な部署からたくさんの手が上がりました。組織を立ち上げた以上は初年度の活動で結果も残さないといけませんでした。そのため、年間50件の新規事業計画、うち10件がポップアップ、最終的に2件くらい成功という目標設計でスタートし、メンバーで企画を出し合いました。

林:なるほど。新規事業タスクフォース立ち上げのために社内から精鋭を結集し、そこからビジネスアイデアを持ち寄るというアプローチですね。素晴らしいです。これに加えて、オープンに外部からの知見を積極的に取り入れていくのがYOKAプロの真髄ですよね。

岩淵:はい。そのためスタートアップへの出資も積極的にさせて頂いて、ここ3年で9社のスタートアップへの投資を行いました。各社の投資検討にあたっては、企業価値評価や投資スキームの検証など、ほぼ毎回のようにことあるごとにドーガン・ベータさんにアドバイスを頂きました。発足当初は、九州に限らず事業連携の確度が高そうな企業(ゼネリックソリューション、LisBなど)への投資を行ってきました。その後、スピード感を持って事業連携を図るためには、比較的早い段階で投資を行う必要があるという発見もあり、最近では地元のシードステージ(mobby、メドメイン、Charichariなど)にも積極的に投資を行ってきました。

林:弊社ファンドとの共同投資という意味では、メドメイン・ChariChariでご一緒させていただいています。いずれも九州発で、これからのインフラを担うという意味で親和性が高いと感じていて、QTnetの投資信念のようなものを感じ取ることができます。まさに先ほど野村さんがおっしゃっていた、ネットインフラの先に必要なものに投資をされていますね。

さらに、2020年1月には、地元プロeスポーツチーム「 SengokuGaming(センゴクゲーミング) 」を運営している戦国の子会社化にも踏み切られました。今日のインタビュー会場としてご提供いただいたこの「esports Challenger’s Park(通称:チャレパ)」もYOKAプロの代表的な取組のひとつですよね。このあたりについて、そしてこれからのYOKAプロについて、現役YOKAプロ部長の稲葉さんにお話を伺いたいと思います。

稲葉 太郎(いなば たろう)
株式会社QTnet 経営戦略本部 YOKAプロ部 部長
1995年九州電力株式会社入社。2012年(公財)ハイパーネットワーク社会研究所への出向等を通じてICTコンサルや自治体・民間企業との共創事業の責任者を歴任。九州電力では2017年から九電グループ全般の新規事業プロジェクトを担当し、スタートアップ投資やオープンイノベーションに注力。2021年より現職。

YOKAプロが生み出した「企業文化」「スピード感」

林:それにしても「YOKAプロ」という名前、素敵ですね。「よか」って、九州の方言でもあり、そこに秘められたYes, OK, Agreeのメッセージもスタートアップ的ですよね。チームのスピリッツの象徴でもあるという意味では名前ってすごく大事だと思います。

稲葉:あらゆる挑戦を受け入れるという、前向きな意味でYOKAなんです。いろんなことにチャレンジしてみるのはもちろん、失敗してもよかよ、という「よか」でもあって、「やってみよう」だけじゃなくて、「やめてみよう」ができるという意味も込められています。

林:YOKAプロ結成後の組織全体の動きはどのような感じですか。

野村:スピード感が他とは全く違うと思います。先日YOKAプロが企画したチャレパでのeスポーツイベントに九州電力本体のメンバーも参加してくれたのですが、満席の会場とその熱気にびっくりしていました。九州電力としてなかなか踏み込めない領域にもチャレンジできるQTnetの存在意義は、確実に本体にも伝わっていると思います。やってみないと見えない世界ってあるから。QTnetから他の九州電力グループ会社にも波及していっている、という実感はあります。

林:YOKAプロは九州電力グループ内で情報源であり交易の原点であり、いわゆる出島のようなポジションですよね。九州の中でオープンイノベーションの成功事例を実現されていると感じています。我々も、博多明太子がそうだったように、弊社の投資手法を「秘伝のたれ」にして門外不出とするのではなく、提供できるものは惜しみなく出していくべきだと考えています。そうすることでLP投資家さんたちもより積極的にスタートアップとの交流を深めることができ、エコシステムがさらに盛り上がっていくのではないかと期待しています。

自社ならではのバリュー提供も含めた投資

林:2021年にYOKAプロ部長に就任された稲葉さんは、まさに結果を出すフェーズというか、スピード感を持って新しい取り組みにチャレンジしつつ、野村さん・岩淵さんが蒔いてこられた種をしっかり育てるという両方のミッションが課せられますね。

稲葉:そうですね。生まれた事業をどう展開していくのかを常に試行錯誤しながらリニューアルしています。その切り盛りをしながらゼロイチへの出資や協業も並行して行っているのでやることがすごく多いです(笑)。投資については、お金を出すだけではなく、投資先企業のリソースも支えなければいけないということを、VCさんとの関わりの中で学ばせて頂いたので、出資した会社への営業支援をYOKAプロはもちろんのこと、自社の営業本部にお願いすることもあります。このようにして既存事業の部署との連携も意識しながら取り組んでいます。また、社外の情報を豊富に持つことで、私たちを起点に法人営業や既存事業との繋がりができるという、いわゆる「ハブ的役割」を目指しました。この動きによって他本部からの信頼や新たなお客さまとの繋がりが生まれ始めています。

林:いよいよ九州電力グループの新規事業の推進役として、グループへの貢献が始まったイメージですね!そしてこのチャレパのように、YOKAプロの取り組みを具現化する場所が完成したことも、活動を加速させるきっかけになるのではないでしょうか。

稲葉:私たちにとってSengoku Gamingを運営する戦国はM&Aによって新たな事業領域を構築した成功事例です。オンラインで簡単に繋がることができる現代において、あえてリアルで集う場がある事の意義や意味について、YOKAプロと戦国のメンバーで一緒になって考えました。その中で、私たちはこの場を「あらゆる人々が集い、新たな可能性とつながりを創る場」と位置づけました。新しい事業のイマジネーションが膨らむことは、社内だけなく社外との連携においても重要です。実際に、2022年6月にライブ配信プラットフォームサービスを手掛けるSHOWROOMと戦略的資本業務提携を行いましたが、この提携は、代表の前田さんとこのチャレパで将来構想などを語り合う中から実現しました。

ありがたいことに、YOKAプロの知名度も全国に広がっていて、会社運営の参考にさせていただきたいという声も頻繁に耳にするようになりました。九州以外の地域で講演をさせて頂く機会もあります。背景にはやはりメンバーの成長があると思っています。ミドル~レーターの投資で協業機会を増やしつつ、そればかりでなく地域に根ざしたシードスタートアップにも投資して支援していく、YOKAプロが築いたスタートアップのチャレンジ精神、ベンチャースピリッツの流れは変えず、投資活動をする中で明確に見えてきた部分は変えていく、という風に「守る」ことと「変える」所のメリハリは意識しています。

岩淵:YOKAプロのコンセプトは「QTnetの中のスタートアップ」なので、大きな会社の一員ではなくスタートアップのつもりでやっています。

林:確かに、スタートアップ系のイベントでYOKAプロのメンバーの方を見かけないことの方が少ないくらいです。みなさん起業家へのリスペクトがあって、どうやったらQTnet、九州電力グループが彼らに貢献できるのかを一生懸命考えていただいてます。まさにベンチャーキャピタリストですね。

稲葉:その一方でやはり最初は尖っていて、限られたリソース・期間で成果を出すことにこだわっていたので、社内で「YOKAプロが全然協力してくれない」みたいな空気になってしまって、最初は舵取りに苦労しました(笑)でも投資の知見や社外ネットワークを蓄積することはマストだったので、そこはうまく調整しながら保ちました。

林:なるほど。大企業の「出島」を成長させていくにはスタートアップ側・会社側どちらに寄りすぎても駄目で、そのスタンスの取り方が難しいところかと思いますが、さすがのバランス感覚です。

稲葉:一方で、新しい取り組みをしようとしたときに、全体の2割が変わらないと組織の文化は変わりません。YOKAプロのメンバーは現在約20数人なので、全社比(約1,000人)から計算するとまだまだ数%にすぎません。そこで、より社内の関係人口を増やすために、人事部門と協同で新規事業検討メンバーを集めることにしました。集まったメンバーの平均年齢は30歳くらいで若年層が多く、2022年9月からプログラムを開始します。社外のVCさんともコミュニケーションをとりながら、既存の部署でも新規事業にチャレンジする人を増やそうと考えています。QTnetが運営しているECサイトなど、新しい事業によってシナジー効果の生まれそうな事業領域はまだまだ沢山あると考えています。

林:まさにベンチャースピリッツを吹き込むという感じですね。働き方や働くことに対するスタンスの取り方のような会社の文化を変えるというのはやはり大事で、QTnetさんが主体となってそのような文化を作っていければ良いと思います。スタートアップの本当の面白さって、人生レベルで仕事観が学べるところにあると思うんですよね。こういった新しい取り組みが発信された結果、日経新聞の2023年卒版就職企業人気ランキングでは九州14位にランクインされていました。前年ランク外からの躍進です。

岩淵:YOKAプロがあることによって、QTnetは通信以外の事業もやっているという魅力にもなるし、そこに惹かれる良い人材集めができると思うんです。

稲葉:QTnetは「九州で一番ワクワクする会社」を社内スローガンとしていて、この「ワクワクする」という部分に学生さんたちも魅力を感じてくれていると思っています。そのワクワクの延長線上にどのような企業と協業しているのか、という項目も入ってくると考えています。

林:ワクワクする会社がたくさんないと多様性も欠けてしまいますよね。昨今は「パーパス経営」などのキーワードも見かけますが、人生のパーパスとして、生まれ育った地域に一生を捧げたいという考えもあって良いと思うし、わざわざ首都圏や海外に出ずとも地方でもワクワクできる環境が作れたら良いと思っています。

YOKAプロ今後のチャレンジ

林:最後に、今後のYOKAプロについて聞かせてください。

稲葉:実は海外にも展開しようとしています。「九州から世界へ」というスローガンのもと、以前から通信業界のネクストステージを模索していたということもあり、その具現化の第一歩として、eスポーツ領域において、世界を視野に一段踏み入れようという動きがあります。

林:立ち上げからわずか3年ですが、スタートアップへの投資やM&A、新規事業開発などたくさんの0→1を生み出してこられました。これからその領域を更に広げていく、というまさにYOKAプロ2.0のフェーズですね。また、今年もオープンイノベーションプログラムを開催されるそうですね。

稲葉:はい。オープンイノベーションTSUNAGUの3年目が9月からスタートします。今年は東京、名古屋、福岡の3か所でリアル説明会を行います。既に来年の4年目も企画中で、エリアごとに特化したようなものを考えても良いのかなと思っています。海外企業からの申し込みも来ていて、グローバルな展開も着実にできていると実感しています。

林:ありがとうございました

QTnetオープンイノベーションプログラム「TSUNAGU」

編集後記

気づけばQTnetさんとも5年に渡るお付き合いになりました。大企業とのお付き合いで担当部長が交代するということは頻繁にあることですが、特にこういった新規事業系の部門では、そのたびに関係性がリセットされてしまいます。しかし、QTnetさんとの間ではそういった事象は全然なく、むしろバトンが受け継がれるたびにその熱量やスピードが増しているという印象です。こちらに、QTnetさんの5年間の取り組みを整理してみましたが、短期間でこれだけのことを成し遂げているチームです。さすがです!微力ではありますがこれからもお手伝いさせていただきます。

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