創業の地 福岡はベストな選択か ── 福岡のスタートアップ・エコシステムの強みとは

弊社ドーガン・ベータのドーガンという名前、九州の方言「どげんですか(主に福岡・鹿児島)」「どがんですか(主に佐賀・長崎)」「どぎゃんですか(主に熊本)」「どんげですか(主に宮崎)」「どげえですか(主に大分:諸説あります)」…といった九州の言葉で、割と親しい間柄で、久しぶりの挨拶に使われる「最近どうよ」的なニュアンスがその由来だったりするのですが、僕たちが九州内外でスタートアップ・エコシステムにかかわる活動をさせていただくなかで、「最近の福岡どうですか」といったご質問をいただくことも多く、今回はこのあたりのFAQを僕なりに整理して、福岡におけるスタートアップ・エコシステムの今をお伝えできたらと思います。

このような方に
・九州でのスタートアップの可能性に関心のある起業家の方々
・スタートアップへの参画や投資家など何らかの形でこれからスタートアップに関わりたいと思っている方々・これからスタートアップに関わりたいと思っている学生の皆さん(特に九州在住や九州出身の方々)
・福岡の事例を参考に、地域でのスタートアップエコシステムをとお考えの全国各地で活躍される支援者の方々

福岡のスタートアップの歴史

まず、今の福岡をより深く知っていただくために、福岡の歴史について軽く触れさせていただければと思います。

旧来、福岡市は商業都市として発展してきた歴史があります。というのも、福岡市には一級河川がないという地理的な背景もあって、お隣の北九州市が官主導で工業都市として成長してきたのとは対照的に、商人の町として栄えてきました。それゆえ、まちづくりが民間主導で進んできたというのも特徴的で、行政を含め大企業など官僚的な巨大組織は少なく、鉄鋼・自動車・半導体など特定の産業に依存していないという多様性のある産業構造が出来上がります。実はこの街の成り立ちは、後のスタート・アップエコシステムの礎づくりに貢献しているのではないかと思っています。

そういった背景で、高度経済成長期以降のいわゆるベンチャー第1世代では、例えば
・ファミリーレストランという業態を開発した、ロイヤルホスト
・仏壇をロードサイド型店舗でわかりやすく販売し、市場の民主化を果たした、はせがわ
・住宅地図のプラットフォーマーとなった、ゼンリン
など、僕たち福岡のスタートアップシーンの大先輩が多数存在します。そしてこういった方々が、まさに「ペイ・フォワード」の精神で現在も物心両面の支援を展開されています。このように、インターネット紀元前の時代から、福岡は多くのベンチャー企業を輩出してきました。その後、2000年前後にはインターネット草創期には少し存在感が薄れていた感もありますが、例えばゲーム産業などを中心に、IT産業が活発化してきました。

スタートアップ都市への大きなきっかけとなったのは、高島宗一郎市長の「スタートアップ都市宣言(2012)」ではないかと思います。それ以前より、ご紹介したような先輩起業家がコミュニティを形成して後続を支援する「ペイ・フォワード」型の支援に行政も参画し支援を行っていたのですが、より高い視座で、世界を目指すスタートアップを育成しようと、福岡出身の起業家である孫泰蔵氏らと宣言、それが2014年の国家戦略特区指定につながるといった流れです。

これ以降については、ご存知の方も多いと思います。2014年にスタートアップカフェが誕生、2017年にはさらにスケールアップして、大名小学校跡地を活用したスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Next(FGN)が開設されます。
福岡のスタートアップシーンは、このFGNを中心に広がりをみせており、僕たちの支援先スタートアップの多くが大名エリアに本社を置いています(弊社も、本社兼コワーキングスペースを大名で運営してます)

福岡の強み

続いて、そんな福岡でスタートアップすることのメリットについてまとめてみたいと思います。ただ、先に申し上げておくと、個人的にも「とにかく今は福岡が熱いからみんな来たほうがいいよ」というテンションではなく、「自分たちにとってベストな場所でスタートアップを興す」という視点で、福岡がベストになりうる要素がいくつかあるということを皆さんに知っていただきたいと思っています。もちろん、福岡以外にも全国各地に、その地域の特性を踏まえたエコシステムが醸成されているエリアはたくさんありますので、福岡に限らずとも、東京一択ではないという前提でスタートアップを構想していただけると嬉しいです。

①スタートアップリテラシーの高さ

皆さんお住まいの市町村にも、自治体が定期的に発行する「市政だより」なるものがあると思います。こちらは昨年2月に発行された福岡市の市政だよりです。なんと表紙をスタートアップが飾っていて、高島市長が福岡市を「新たなサービスが生まれるまち」にしていこうと、応援メッセージを添えられています。

出所: https://www.city.fukuoka.lg.jp/shicho/koho/shisei/shisei/r03000201.html


ここに象徴されるように、都市全体のスタートアップリテラシーというか、支援意識がとても高いというのが福岡の大きな強みではないかと思っています。弊社の運営するファンドも、地元事業会社など40社以上からのLP出資を受けて運営をさせていただいていますが、これはひとえにLPの皆様のスタートアップの理解の高さ、また地域にスタートアップエコシステムを作り上げて福岡をもっと元気にしようという思いの強さの現れではないかと思っています。

福岡でスタートアップに挑戦する起業家の皆さんも、この応援はとても頼もしく感じられることと思います。実際に、例えば特定業種のB2B領域など、一見とっつきにくそうな領域でも、弊社が触媒機能を果たしてLP投資家を含む地元事業会社とスタートアップが手を組んでいる事例も多く、こちらのLive Searchをはじめ、まず福岡でPMFを達成して新たなステージに進むというスタートアップも多数あります。

“あえて”福岡で起業、Live Searchが「地方でPMFを達成する戦略」を選んだ理由
地元でもなければ、特別な縁があるわけでもない。それにも関わらず“あえて”福岡で起業する道を選んだと話すのが、不動産法人向けのSaaSを手掛けるLive Search代表取締役の福井隆太郎さんです。 Live Searchは不動産業界出身の福井さん自身が感じてきた業界の課題を解決するべく立ち上げ...

B2B領域に限らず、B2Cの世界でも、この強いモメンタムがスタートアップを後押ししている事例はあります。

ポートをたくさん置けば置くほど便利になって利用者が増えるチャリチャリのサービスモデルについて、地元の事業会社にもご理解をいただき驚異的なスピードでポート拡大していますし、先ほどの市政だよりにも特集を組んでいただくなど行政のサポートも充実しており、それこそ先ほどの市政だより4月号で福岡に転入した方向けにぜひ使っていただきたいサービスとして紹介されていたりなど、福岡ではすでに都市に欠かせないサービスというレベルにまで成長しています。

“地元企業との連携”で事業拡大、累計35万人が活用「チャリチャリ」の地域に根ざしたサービスの作り方
2018年2月に福岡でサービスを開始したシェアサイクルサービスの「Charichari(チャリチャリ)」。現在では約2,500台の自転車と500ヵ所以上の駐輪ポートを展開し、地域密着型のモビリティサービスとしてさまざまなシーンで使われるようになっています。 対象のエリアも少しずつ拡張していて、...
②多様な資金調達手段

次は、事業を起こすことに不可欠な「カネ」についてです。また、資金調達面でも、2014年の国家戦略特区指定以降、大きな進化があったと思います。まさしくアナウンスメント効果と申しますか、九州各地の地方銀行がVC子会社を通じた投資を活発化させていて、福岡銀行、北九州銀行(山口フィナンシャルグループ)、西日本シティ銀行などそれぞれが数十億円単位のファンド設立を相次いで行ったほか、キューサイ(当時)や福岡地所、西部ガス、南福岡自動車学校、アイキューブドシステムズなど地元企業のCVC設立も相次いでおり、シード~シリーズAを担う投資家が一気に多様化し、少なくともシードマネーの調達では東京都に遜色ない状況になってきたのではないかと思っています。また、創業支援の機運が高まったことにより、日本政策金融公庫の創業融資の取り組み件数も全国有数に伸長していると伺っています。

さらに、シリーズA以降の資金調達の担い手となる在京VCや事業会社がたくさん福岡を訪れてくれている、というのも大きいです。B Dash Camp、IVS、 ICCなど大型カンファレンスはそれぞれ少なくとも年1回は福岡で開催されていて、その都度著名キャピタリスト・エンジェル投資家の皆さんを始め数百人の投資家が福岡に集結しています。

また、弊社でも2022年よりQ.E.D.(Qshu Entrepreneur’s Day)という、とってもクローズドなイベントを実施しています。支援先を中心に毎回5人程度の起業家をノミネートし、シリーズAでリード投資を行うような在京Top Tierのキャピタリストの皆さんを福岡にお呼びして、サーキットメンタリングを実施するようなイベントです。大変ありがたいことにこういった趣旨で東京のキャピタリストの皆さんにお声がけをすると、ぜひ福岡のスタートアップと接点を持ちたいということでご快諾をいただけております。(出張したい街ランキングで常に上位にランクインする福岡の実力でもあります)

③人材へのアクセス

ここは強みでもあり、これからの福岡、ひいては地方のスタートアップエコシステムの大きな課題の一つとなっているとは思うのですが、人材についてもぜひ触れておきたいと思います。

スタートアップシーンに限らず、様々な事業領域でエンジニア人材の不足が取り沙汰されている昨今ではありますが、もちろん福岡もその例外ではなく、エンジニア採用が経営課題に挙がっていない支援先スタートアップはほぼゼロではないかと思います。

では人材面で福岡に強みがないかというと実はそうでもなく、歴史的にデジタル人材雇用を総取りするような圧倒的な大企業が存在せず、フリーランス文化が以前から浸透していた点はそれに挙げられると思います。フリーランスとスタートアップの正式雇用の境目部分が良い感じに曖昧になっていて、その分だけ人材アクセスが容易になっているといえそうです。実際に僕たちの支援先を眺めてみても、CEOがフリーランスから起業したスタートアップや、CTOやVPoEがフリーランス出身で、スタートアップの成長とともにコミットを増してきたようなスタートアップが圧倒的に多いです。

例えば、スタートアップを興すときの最初のエンジニア採用や、シードマネーを調達して本格的なプロダクト開発に着手するフェーズなど、フリーランス人材へのアクセスが容易という強みが活きる場面は多くありそうです。逆に、エンジニアバックグラウンドのスタートアップであれば、フリーランス集団として域内外のスタートアップその他から受託を行いつつ事業構想を固める、といった選択肢もあるかもしれません。

また、デジタルハリウッドが他の地方都市に先駆けて1998年から福岡校を開校しており、同社のジーズアカデミーも東京に次いで福岡にオープンしているほか、福岡都市圏の大学もスタートアップマインドあるエンジニア人材育成に力を入れ始めており、今後ますまず裾野が広がっていくのではないかと期待しています。

他方、事業開発やファイナンス系の人材がまだまだ少ないのは大きな課題ではないかと思っています。ただ、この部分で東京との差が埋まっていかないのは歴史的に無理もない話ではあると思っていて、例年、新規上場企業の8割以上が首都圏で、福岡からはまだ年数社という現実を踏まえると、上場準備やそれに向けた事業成長を担う人材が福岡をはじめ地方に少ないことはある意味必然とも言えます。したがって、事業の成長に伴い、管理や事業開発のチームを首都圏で構築するような支援先も少なくありません。
しかしこれは裏を返すと、それだけ挑戦しがいのあるポジションがまだまだ空いているということで、しかも福岡ではこの10年、IPOに挑戦するスタートアップが加速度的に増加しており、この領域にチャレンジしたいという若い人材や首都圏で経験を積んだ人材がそれだけ求められている状況です。特に九州にゆかりのある方、皆さんのチャレンジをお待ちしております。

 

最後に、これはここで論じるまでもないですが、福岡の住みやすさや暮らしやすさ、東京へのアクセスの良さは大きなアドバンテージだと思います。特に九州にゆかりのある方々など、将来的に九州・福岡への移住を考えている方には敢えて「今でしょ!」と申し上げたいです。林だけに…ということはさておき、スタートアップコミュニティがエコシステムに昇華する、歴史的瞬間に立ち会えることをお約束します。

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